将棋の数ある戦法の中から代表的な戦法の序盤の定跡と特徴を初心者向けに紹介します。
今回は振り飛車穴熊です。
美濃囲いよりも玉が堅くて遠いので、それらを活かして豪快に捌くのが魅力の戦法です。また、穴熊特有の王手が掛からないという特徴は終盤の寄せ合いで恐ろしいほどに威力を発揮します。
そんな振り飛車穴熊の序盤の定跡と特徴を紹介します。
振り飛車穴熊とは?
振り飛車穴熊とは、その名の通り飛車を振って玉を穴熊に囲う戦法のことです。
角交換系の振り飛車でも穴熊に囲う場合がありますが、通常振り飛車穴熊というと角道を閉じるノーマル振り飛車のことを言います。今回紹介するのはノーマルタイプの振り飛車です。
穴熊に囲うことでより強固に玉を囲う事ができ、堅さをバックに強気に攻めることが出来るのが一番のメリットです。
また、居飛車穴熊の場合は藤井システムなどのように穴熊に囲う前に攻められる恐れがありますが、振り飛車穴熊は囲う前に攻められることはほとんど無いので安心して囲いを構築する事が出来ます。
序盤からの乱戦を避けつつ、中盤以降強気に攻めたいという人にはぴったりの戦法です。
相穴熊の序盤戦
振り飛車穴熊に対して居飛車側の対策で有力なのは穴熊か銀冠の持久戦です。
舟囲いからの急戦もありますが、これは玉型の差がありすぎるからかあまり指されることはありません。ただ、振り飛車側が居飛車の攻めを受けきるのは容易ではないですし、あまり指されることがないということを考えると振り飛車側が対策を怠っている可能性があります。
そういう意味では意外と急戦も有力な作戦だと思います。
今回は居飛車の作戦で多い「相穴熊」と「対銀冠」の序盤の指し方を紹介します。
初手から▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△5四歩▲7八銀△8五歩▲7七角△6二銀で1図。
四間飛車の記事でも紹介しましたが、角道を閉じて飛車を振り、飛車先を伸ばした手には▲7七角として歩の交換を避けるのが重要です。
1図からはお互い玉を囲いにいくのですが、振り飛車側は淡々と穴熊に組んでいては作戦負けする恐れがあります。居飛車の動きを見ながら駒組みを進めていくのが序盤をうまく指すコツです。
1図以下、▲4八玉△4二玉▲3八玉△3二玉▲2八玉△5三銀で2図。
居飛車の△5三銀が持久戦の可能性を明示した手です。舟囲いからの急戦なら△7四歩や△4二銀となるところです。
2図以下、▲1八香△3三角▲1九玉△2二玉▲6七銀△1二香▲5六銀で3図。
△1二香と穴熊を明示した瞬間に▲5六銀と出るのが大事な手です。
この銀は次に▲4五銀として3四の歩を取ると同時に角をいじめにいく狙いを秘めています。後手はこうなってはまずいので、3図では▲4五銀を防ぐ△4四歩か△4四銀としてから穴熊に組むのが多い展開です。
ちなみに△1二香の前に▲5六銀とするのは△4四歩から銀冠の余地を与えてしまうので、居飛車の囲いが判明するまでは左銀は▲6七で待機させたほうが良いです。
3図以下、△4四歩▲4六歩△1一玉▲2八銀△2二銀▲4八飛△3一金で4図。
後手は△4四歩として銀の進出を防ぎましたが、歩を突いたことで争点が出来てしまいました。先手は▲2八銀と穴熊のハッチを閉じた後▲4八飛として4筋に狙いをつけます。
4筋に飛車を移動させた形は右四間飛車の駒組みにすごく似ていますね。
△3一金でもし後手が△5二金右とすると▲4五歩と仕掛ける手が生じます。これを△同歩と取ると▲同銀△4三金▲3四銀(参考1図)で先手優勢です。
△同金なら▲4一飛車成りで決まります。
4図以下はお互いに金を穴熊に近づけて囲いを強化し、先手は隙あらば▲6五歩と角道を開けてから▲4五歩と攻め、後手は△5五歩~△7五歩~△7二飛などの攻めを狙う展開が予想されます。
途中色々変化はありますが、このように囲いを構築させながらも敵陣を見ながら銀の動きを決めるのが振り飛車穴熊の序盤戦術になります。
対銀冠の序盤戦
振り飛車穴熊への有力な対策として穴熊以外にも銀冠があります。
銀冠は穴熊と違い上部に手厚いので、振り飛車の穴熊を縦から攻めやすいというメリットがあります。また、手詰まり模様になったらさらに玉を深く囲う銀冠穴熊にすることも可能です。
穴熊に比べバランス重視で柔軟性があるのが特徴と言えます。
初手から▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△5四歩▲7八銀△8五歩▲7七角△6二銀▲4八玉△4二玉▲3八玉△3二玉▲2八玉△5二金右▲1八香△5三銀▲1九玉△3三角▲2八銀△2二玉▲6七銀△3二銀で5図。
手数が長くなりましたが先ほどの相穴熊の場合とほとんど同じです。先手は左の銀の動きを▲6七で保留するのがやはり重要で、居飛車が穴熊と判明するまでは▲5六銀とはやりません。
▲5六銀型も悪くはないのですが手詰まり模様になりやすいので先手番ではそれが不満です。△3二銀が銀冠を目指す一手。この手を見たら▲6六銀型を目指しましょう。
5図以下、▲5八金左△1四歩▲3九金△2四歩▲4六歩△2三銀▲3六歩△3二金▲4七金△7四歩で6図。
銀冠に対しては▲4六歩~▲3六歩~▲4七金としてバランスを優先するのがポイント!これで▲3八飛や▲4五歩と動く含みをもたせます。
銀冠相手には堅さだけでなくある程度バランスの取れた陣形を築くのが重要で、淡々と組んでは手が出しづらくななってしまうので注意が必要です。
また、△7四歩で△4四歩と角道を止めたらすかさず▲6五歩と角道を開け、次に▲6六銀~▲5六歩とします。これで将来▲5五歩から攻める事が出来ます。
6図での先手の指し手は色々あり、▲3八飛~▲3五歩や▲4五歩~▲4六金~▲3八飛と角頭を狙う順などがあります。
注意点としては4七の金が離れ駒なのでそれを狙われないようにすることです。戦いが激しくなる前に▲3七金と囲いに寄せれば強く戦う事が出来るので、余裕があれば金を寄せるのをおすすめします。
以上が対銀冠の序盤戦の基本です。
まとめ
では最後に振り飛車穴熊についてまとめますね。
・振り飛車と穴熊囲いを組み合わせた戦法
・序盤が穏やかでほぼ穴熊に組める
・美濃囲いより堅いのでより強気に攻める事が可能
・居飛車の対策で有力なのは穴熊と銀冠
・穴熊には▲5六銀型、銀冠には▲6六銀型が有力
・居飛車の囲いが判明するまで左銀の動きは保留させる
振り飛車穴熊は序盤がわかりやすくて尚且つ玉をしっかりと囲いやすい戦法なので、常に玉を安全に囲ってから戦えるというメリットがあります。これは時間の短いアマチュアの将棋で強力な武器になります。
玉が堅ければそれだけ強気に攻めれますし、時間が短い分相手が間違える可能性が十分ありえるので実戦向けの戦法と言えるでしょう。
広瀬章人八段が振り飛車穴熊をメインに王位を獲得して以降定跡書が充実してきているので、本で学ぶのが困らないところもアマチュア向けで嬉しいところです。
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