将棋の数ある戦法の中から代表的な戦法の序盤の定跡と特徴を紹介します。
今回は一手損角換わりです。
後手でありながら手損してしまうのは駒組みが遅れるので従来は考えられない手でしたが、「手損が逆に得になるかも」というのが現代将棋の感覚です。そんな一手損角換わりをサクッと学んでいきましょー!
一手損角換わりとは?
一手損角換わりは後手が使う戦法で、通常の角換わりよりも後手が一手損して駒組みを進める戦法のことを言います。
ただでさえ先手より一手遅れるのを更にもう一手遅れて指すという、従来の感覚ではありえないまさに現代将棋ならでは戦法です。
また、後手は自分から角交換すればほぼこの戦法に持ち込めるので、得意戦法に誘導するという面ではとても有効です。
では早速一手損角換わりの序盤の定跡を見ていきましょう!
初手より▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8四歩▲2五歩△8八角成▲同銀で1図
△3二金と△8四歩を省略して4手目に角交換し、角交換振り飛車の可能性も視野に入れる指し方もあります。
通常の角換わりでは先手が▲7七角とする手を見てから角を交換するのですが、一手損角換わりでは先手の角が8八にいる状態のまま角を交換します。これにより後手が手損をすることになります。
※通常の角換わりでは先手の▲7七角が余分な一手と計算するので後手から角交換しても手損になりません。
なぜ手損するのか?
そもそも後手がなぜ手損するのか不思議ですよね。普通なら少しでも早く駒組みを進めて指したいと思うはずです。もちろんちゃんと理由があって手損します。何の理由も無く手損はしません。
その理由とは…
「△8五桂と跳ねて反撃したいのじゃァァァァ!ウラァァァ!」
です。
はい、どういう意味かわかりませんよね。大丈夫、ちゃんと説明します。あと一部脚色ありなのでご了承願います(笑)
通常の手損なしの角換わりに「同型腰掛銀」という戦型があります。これは角換わりの王道と言っていい戦型で、昭和の時代から数多くの実戦が指されています。
以下の局面が同型腰掛け銀と呼ばれる局面です。
先手と後手がまったく同じ形をしていますね。
この戦型は「先手の攻めVS後手の受け」という構図になりやすく、後手はいつも受けて我慢の展開。それに対し先手は気持ちよくガンガン攻めることができます。
「もう同型腰掛け銀なんてやってらんねー、これからは横歩取りだよww」というボヤキがプロ間で流行ったとか流行ってないとか。
そんな同型腰掛け銀の後手番に皆が苦しんでいた頃に一手損角換わりが登場します。
通常の角換わりでさえ後手が苦しいのに手損するわけなので、「は?なんで手損してんの?ただでさえ先手が攻めまくるのに後手が手損したら先手の攻め止まんないよ、いいの?やっちゃうよ?」という棋士がいたとかいないとか。
で、後手が手損した状態で通常の同型腰掛け銀通り駒組みを進めたのがこちら。
先ほどの手損なしの場合との違いがわかりますか?そうです、後手の飛車先の歩が8四の地点で止まっています。通常の角換わりは8五まで伸びていました。
これによって後手は桂馬をスムーズに△8五桂と跳ねれるようになったんですね。これが大きな意味をもつことになります。
2図で先手が攻めるとどうなるか?ちょっと見てみましょう。
2図以下、▲4五歩△同歩▲3五歩△4四銀▲2四歩△同歩▲7五歩△同歩▲2四飛△2三歩▲2八飛で3図。
手損が無い通常の角換わりでは次に▲7四歩と桂頭を攻められるのでそれを防ぐために△6三金と備えるのですが、わざわざ手損して飛車先を保留した効果がここで発揮されます。そう、△8五桂です!
3図以下、△8五桂▲8六銀△7六歩で4図。
はい、後手の反撃が始まりました。
4図以下まだまだ難しいのですが、この△8五桂と跳ねる手が優秀なんですね。
先手の攻めにずっと耐えていた通常の角換わりに比べると後手からも攻める事が出来るので、後手としては手損してでもこの局面を持ちたいわけです。
この桂跳ねの反撃が優秀で、現在では対一手損で腰掛け銀で挑むのは少数派になっています。
ただ、手損の代償がないわけではありません。駒組の遅れは先手に急戦のチャンスを与えてしまいました。
次は先手の一手損角換わり対策を紹介します。
天敵!?の早繰り銀
先手の対一手損角換わりの対策は棒銀や右玉などありますが、現在有力視されているのは通常の角換わりではほとんど見かけなくなった早繰り銀です。
早繰り銀は▲3六歩~▲3七銀~▲4六銀とし、将来▲3五歩からの攻めを狙った戦法です。
通常の角換わりでは先手の早繰り銀に対し後手の反撃が決まりましたが、一手損の場合は飛車先の歩を保留しているためその反撃手順が決まりません。
詳しくは【超基本!】角換わりの序盤定跡と特徴をご覧ください。
では実際に先手の早繰り銀VS後手の一手損角換わりを見ていきましょう。
初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8四歩▲2五歩△8八角成▲同銀△2二銀▲3八銀△3三銀▲6八玉△6二銀で5図。
▲6八玉と一度玉を移動させるのが重要です。これがないと将来△1五角と打たれて王手飛車をもらう筋が生じてしまいます。▲6八玉では▲1六歩もあります。
5図以下、▲3六歩△6四歩▲3七銀△6三銀▲4六銀△5四銀で6図。
先手は攻めの準備を整えました。
通常の角換わりではこの局面で後手の飛車先の歩が8五にあるので▲3五歩△同歩▲同銀に△8六歩からの反撃があるのですが、一手損角換わりの場合歩が8四の地点なので一手間に合いません。
先手は早速仕掛けます。
6図以下、▲3五歩 △4四歩▲3四歩△同銀で7図。
△4四歩は次に△4五歩として銀を追う手を狙っているのですが、先手の▲3四歩が一歩早い攻めです。
7図以下、▲2四歩△同歩▲同飛△2三金▲2八飛△2四歩で8図。
先手は無事に2筋と3筋の歩交換を果たすことが出来ました。一旦局面が治まったので8図以降は駒組みになり中盤戦へと移行します。
後手は金が上ずってるのでちょっと指しづらい印象がありますが、先手の飛車の小ビンからの反撃を狙うのがこの後の展開として予想されます。
ちなみに△2三金で△2三銀と銀を引くと、▲2八飛△2四歩▲3五銀△3三金▲3一角△5二飛▲2二歩(参考1図)で先手有利です。
ここで紹介した後手の手順はあくまで一例で、他には手損を承知で△8五歩と飛車先の歩を伸ばして反撃を狙ったり、後手も△7四歩~△7三銀~△7四銀と早繰り銀にして「相早繰り銀」という展開もあります。
この戦型は先手が後手の手損をいかにとがめるか、後手はその手損によるマイナスをなるべく小さくして先手の攻めをどのように封じるかに焦点が置かれた将棋になります。
まとめ
では最後に一手損角換わりの基本的な知識についてまとめますね。
・後手が序盤に角を交換して一手損をする角換わり
・手損する理由は飛車先の歩を保留し、△8五桂の余地を作って反撃を狙うため
・桂跳ねの反撃が優秀なので先手の対策で腰掛け銀は減少している
・先手は早繰り銀で後手の手損をとがめるのが有力な作戦
・他の相居飛車に比べ戦型を誘導しやすい
角交換さえすればこの戦型に誘導しやすいというのがアマチュアにとって嬉しいところですね。常に同じ作戦に誘導できるのは序盤戦略を考える上でとても有力です。
ただ、個人的には通常の角換わりの後手でも特に問題ないので、僕が一手損角換わりを指すのは今のところなさそうです。角換わりの後手番が辛くなったら指すかもしれません。
いや、それなら多分横歩取りか振り飛車かも…
というわけで指す予定はなさそうです(苦笑)
コメント
理解出来ました。ありがとございます
一手損角代わりが得意戦法なので天敵が知れて助かりました。
ありがとうござます。